激速から激遅の世界へ どこまでもエクストリームな生き様を見せる男、リー・ドリアン

激速の覇者へ

皆さんはグラインドコアというジャンルをご存じだろうか。デスメタルから派生したメタルのジャンルで、とにかく「速さ」、「過激さ」に重きをおき、それをひたすら追求する音楽である。アメリカのTerrorizerやBrutal TruthにPig Destroyer、スウェーデンのNasum、そしてイギリスのNapalm Deathなどが代表的なバンドである。
とにかく曲が速い、短い、うるさい、やかましい、(何がしたいのかよくわからない)、といった非常に(味わい深い)ジャンルである。大体の曲の長さは一曲1分以内、2、3分もあればかなり長い方だ(感覚麻痺)。アルバムの曲数も20曲~50曲くらいは平気である。
実際にNapalm Deathのライブを見に行ったが「結局最初から最後まで何がしたいのか全くわからなかった」と感想をいう人も。
かくいう僕も2016年のラウドパークで来日したTerrorizerのステージで、とにかくみんな暴れまわり、僕も果敢に飛び込んで行ったが、ガタイのいい外国人のおっちゃんに弾き飛ばされ、メガネをお釈迦にした経験がある。まあとにかくエクストリームな音楽ですね。
極めつけはグラインドコアの王者、Napalm Deathの名盤1stアルバム『Scum(訳:カス・クズ・糞・ウジ虫)』に収録されている“You Suffer”という曲。この曲、歌詞は“You Suffer But Why?”(お前は苦しむ、しかし何故だ?)のみで、曲の長さはなんと約1.316秒。「世界一短くて速い曲」としてギネスブックに認定されている。ホントにちゃんと歌っているのかよコレ?(笑)と笑ってしまうほどトンデモ曲である。
このように、史上最速の曲を世に出し、激速の世界の覇者となったNapalm Death、そしてそのボーカルを務めたリー・ドリアンは後の3作品を発表したのち、バンドを脱退してしまう。

激遅の覇者へ

その後、リー・ドリアンはどのようなバンドを立ち上げたのだろうか、これも後のイギリスのドゥームメタルバンドの代表格となるCathedralだ。
ドゥームメタルというジャンルも皆さんはご存じだろうか。ドゥームメタルとは、グラインドコアと対極をなすようなジャンルで、「重さ」、「遅さ」、「気だるさ」、「ダウナーさ」に重点を置く音楽で、一曲5分10分は当たり前、1時間以上もある曲が一曲だけのアルバムなんかもある。これまたエクストリームな音楽だ。
そのドゥームメタルのルーツはBlack Sabbathの名盤1stアルバム、『Black Sabbath』の一曲目、その名もBlack Sabbathにある。まるで呪われるかのようなずるずると引きずる不気味なギターリフに当時のリスナーはさぞ恐怖したことだろう。もともとBlack Sabbathは「人を怖がらせる音楽」を作ることをコンセプトとしていたが、その時たまたまギターのトニー・アイオミが指をケガしており、高いチューニングのギターの弦を押さえると指が痛むため、わざと低いチューニングでギターを弾き、重たく不気味なリフを編み出した。これがドゥームメタル、もとい、ヘヴィメタルのルーツとなったのであった。
ドゥームメタルの名前の由来は、これまたスウェーデンの重鎮ドゥームメタルバンド、Candlemassの1stアルバム、『Epicus Doomicus Metallicus』から取られた。“doom”(運命、破滅、死)といった意味が、このジャンルにぴったりだと考えられたのだろう。
ドゥームメタルは、そのジャンルの中でもさらにジャンル分けが多い。始祖Black Sabbathの音楽性を忠実に守り、それをさらに重く、オカルティックに表現した「トラディショナル(伝統的)・ドゥーム」(アメリカのPentagramなどがその代表)、Candlemassから始まった、ドゥームメタルにファンタジーやシンフォニック要素を取り入れ、オペラ的な壮大な音楽を目指す「エピック・ドゥーム」、デスメタルからのルーツが強い「デス・ドゥーム」、デス・ドゥームをより過激に、より重く、遅く、陰鬱に発展させた「フューネラル・ドゥーム」、とにかく重くて遅くて長くて、どこを目指しているのかわからない「ドローン・ドゥーム」(Earth、Sunn O)))などが代表)、そしてストーナー・ロック(サイケデリックでブルージーなロック、同じリフを何度も繰り返し、ギターソロはほとんど無い。 “stoner”(ラリった、ヤク中の、といった意味))をドゥームメタルに取り入れた「ストーナー・ドゥーム」等々、(他にもスラッジ・ドゥーム、デザート・ロック、ブラック・ドゥームなどがあるが、ここでは割愛させて頂く)
このストーナー・ロックとドゥームメタルの関係は非常に深く、ドゥームメタルと名乗るバンドのほとんどがこのストーナー・ロック的な影響が強く感じられる。スウェーデンのSpiritual Beggarsがその代表格。Spiritual Beggarsはストーナー・ロックバンドとしてもドゥームメタルバンドとしても取り上げられる。
リー・ドリアンの立ち上げたCathedralは、最初はデス・ドゥームの要素が強かった。(1stアルバム、 『この森の静寂の中で』 – Forest Of Equilibrium)Napalm Deathの時のイメージと比べるとずっこけてしまうくらい激遅な曲の数々で笑ってしまう。

しかし、後の名盤2ndアルバム、『デカダンス』 – The Ethereal Mirrorではストーナー・ロックの要素を多く取り入れた「重いけどノリやすい」音楽性へと変わっていき、人気もうなぎ上りに。そうしてイギリスを代表するドゥームメタルバンドへと確立していったのである。

リー・ドリアンの活動

さらにリー・ドリアンは自身のドゥームメタル専門のレーベルも設立し、様々な若手のドゥームメタルバンドのライブに自ら赴き、うちのレーベルでレコードを出さないかなど、積極的に若手のバンドたちの進出に貢献した。ファンたちにとってはあのリー・ドリアンの推奨するバンドだ!と期待せざるを得ないといった状態だったであろう。(Electric WizardやOrange Goblinなどはリー・ドリアンのプロデュースによって非常に有名なバンドになっていった一例である)
このように、グラインドコア(激速の世界)の覇者となり、次は真反対のドゥームメタル(激遅の世界)の覇者ともなったリー・ドリアン、ヘヴィメタル界でもかなり稀有な存在である。

では、最後にCathedralの代表曲、『Ride』で締めくくろうと思う。

written by 就労継続支援B型事業所 ユアライフ新大阪